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兵庫県労働委員会は、令和7年8月22日、標記事件に係る命令書の写しを当事者に交付しました。その概要は次のとおりです。
(1) 申立人 X組合
(2) 被申立人 Y学園
(3) 申立要旨
ア 申立日
令和5年11月22日
イ 請求する救済内容(労働組合法第7条第2号)
・誠実な団体交渉の実施
申立人X組合(以下「申立人」という。)は、①教員の昇給幅を4号給から6号給に引き上げること、②令和2年度から4年度までの財務資料(資金収支計算書、事業活動収支計算書、貸借対照表、財産目録、借入金明細書及びそれに付随する計算書)を提供すること並びに③令和6年4月に開校予定のB2専門学校(以下「専門学校」という。)の運営についての説明を求めることを議題として、令和5年8月4日付けで被申立人Y学園(以下「被申立人」という。)に団体交渉を申し入れたところ、被申立人は、令和5年10月13日、令和6年4月23日、同年6月4日、同年10月9日、同年11月26日及び令和7年2月6日に実施された団体交渉(以下それぞれ「5年10月団交」、「6年4月団交」、「6年6月団交」、「6年10月団交」、「6年11月団交」及び「7年2月団交」といい、これらを合わせて「本件団体交渉」という。)において、理事長や校長を出席させず、申立人が要求していた財務資料を提供せず、また、専門学校の運営についても資料に基づいて説明をしなかった。
本件は、被申立人の本件団体交渉における上記対応が不誠実団交であり、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事案である。
本件団体交渉における被申立人の対応は、不誠実な団体交渉に該当するか。
(1)本件団体交渉にB1理事長及びB4校長が出席しなかったことについて
団体交渉の使用者側の出席者は使用者の代表者である必要はないが、労働組合の要求に対応して使用者側の見解の根拠を具体的に示すなどする権限を有していることが必要である。
B4校長は診断書が提出されており団体交渉に出席できない合理的な理由が認められる。
被申立人から交渉についての委任を受けたB7弁護士やB5校長代行は、一定の理由とともに被申立人の見解を説明していた。
さらに、B4校長を別室に待機させ、必要に応じて校長自身の回答を伝えることができる態勢をとっており、申立人の要求に誠意をもって対応できる態勢をとっていたと認められる。
(2)財務資料の提供及びそれに基づく説明がなかったことについて
被申立人の情報公開規程による財務資料の閲覧制度は団体交渉における必要な資料の提供とは明らかに異なり、同制度の存在をもって財務資料の提供と同視することはできない。
また、財務資料の閲覧のみができ、複写やメモが禁止されていることからすると、申立人が知りたい事項を特定することは困難であったというべきであるから、情報公開規程による閲覧が可能であることを理由に財務資料の提供をしなかった被申立人の対応は誠実交渉義務を果たしたということはできない。
被申立人が財務資料の提供についての方針を何度も翻したことは労使の信頼関係を損なうもので不誠実な対応と言わざるを得ない。
法人の方針が変わった場合は、その理由を申立人が納得するように具体的に説明をする必要があり、合意達成に向けて真摯に努力すべき義務があったというべきである。
専門学校の運営についても、その経営や管理に関する事項は、被申立人の専権に属し、原則として義務的団交事項には該当しないが、専門学校の運営が高校の教員の労働条件その他の待遇に関係する限りで義務的団交事項になるというべきである。
専門学校で赤字が続けば同一法人内の高校の教員の労働条件に影響が出ることは十分に考えられる。
被申立人は、専門学校の創立費の運営状況等必要な資料を提示し、それに基づいて専門学校の運営が高校の教員の給与に影響しない根拠を具体的に説明する必要がある。
(3)総括
以上のとおり、本件団体交渉にB1理事長及びB4校長が出席しなかったことは労組法第7条第2号に該当しないが、被申立人が①昇給幅の拡大に関し、財務資料の提供及びそれに基づく説明をしなかったこと並びに②専門学校の運営がB3高校の教員の労働条件に及ぼす影響に関し、必要な資料の提供及びそれに基づく説明をしなかったことは、労組法第7条第2号に該当する。
調査7回、審問2回
令和7年8月7日の公益委員会議で、全部救済命令を発することを決定
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