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県民センターに着任してから不思議に思うことの一つに、六甲山と摩耶山の関係があります。六甲山(系)は東西30kmに連なる山々全体を指すので、摩耶山は厳密には六甲山の一部、ということになります。しかし、WEBサイトや観光ガイドマップ、山上バスの垂れ幕などそのほとんどが、六甲山と摩耶山を区別して取り扱っています。その場合、一般的には山系の最高峰(標高931m)付近が六甲山、そのすぐ西に位置する山(標高702m)が摩耶山と呼ばれています。ちなみに私の勝手な印象なのですが、最高峰付近にはよそ行きな華やかさがあり、摩耶山は地元に優しく愛される存在、というイメージがあります。摩耶山に”地域の山”の印象を抱くのは、おそらく、地元の方が歩いて比較的簡単に登っていけること、かつては茶店や遊園地など市民の憩いの場があったこと、水害、戦時下、震災など幾度の苦難を乗り越えてケーブルが地域交通として愛されていることなどに因るのではないかと思います。地元の皆さんによって昭和48年に設立された「摩耶山を守ろう会」の活動も半世紀以上にわたって取組みが続いているほどです。
しかし摩耶山の魅力はその身近さだけではありません。よく知られているのは山上からの景色。頂上近くの掬星台からは大パノラマが広がります。特に夜景は、長崎、函館とともに日本三大夜景と称されるほど綺麗です。
そして、途上の駅〔虹の駅〕には観光・治山遺構を組み合わせた面白いポイントもあります。県のフィールドパビリオンに認定されているということもあり、今回は摩耶山に(バス、ケーブル、ロープウェーで)登ったリポートをお届けします。
摩耶山という名前。そもそも平安仏教・真言宗の改祖である空海が、お釈迦様の生母「摩耶夫人(まやぶにん)」を安置し、山頂に天上寺を創建したことに由来するようです。先ほど、掬星台と治山遺構に触れましたが、魅力はそれだけにとどまりません。一千年以上にわたって自然に守られながらその時々の歴史の舞台となった地だけに、特に虹の駅・星の駅周辺、両駅を結ぶロープウェー西側の上野道には、”神戸のマヤ遺跡”として伝説、信仰、戦、治山、観光とさまざまな歴史遺構が点在しています。
摩耶山では幾つかのツアーがあり、地元ガイドさんと一緒にゆっくり巡る事ができます。摩耶ケーブル駅下から上野道を歩くとたくさんの遺構に出会えるのですが、今回は三宮や灘区内を走る沿線の駅から交通機関を使って一番簡単に摩耶山を楽しむ事にしました。
1 摩耶ケーブルまでのアクセス 次のいずれかが便利です。
2 摩耶ケーブル駅 ~ 虹の駅 3 虹の駅 ~ 星の駅 |
摩耶ケーブルは天上寺の参拝客を運ぶ目的で大正14(1925)年開業、今年100周年です。先述のとおり、昭和13年の阪神大水害による線路流失、戦時下の鉄材供出、そして阪神・淡路大震災の被害等、幾度の営業休止から見事に復活して100年を迎えました。
レトロで親しみやすい車両は開業当初から3代目にあたります。小さな見かけによらず約50人を運びます。運転は20分間隔。並ぶこともあるので、この日は満を持して朝10時の始発に乗りました。海外からお越しの方も多く、電子決済による乗車券の購入も、もちろんOKです。
900mの行程のうち、高低差は312m、最大勾配は547‰(パーミル)だそうです。写真ではなかなか伝わりにくいかもしれませんが、相当に急な坂ですよ。
ケーブルで虹の駅に着いたら、すぐ東側に旧摩耶観光ホテルが下観できますが、そのまま歩いて数分のロープウェー虹の駅へ。今年はケーブル100周年とともに、ロープウェーも開業70周年という特別な年になりました。ロープウェーからは神戸の街並みとともに旧摩耶観光ホテルを観ることもできます。
ロープウェー星の駅を降りるとすぐに掬星台です。
手で掬う(すくう)ことができるほど、空が近くて美しい、というのが名前の由来だそうです。素敵ですね。
ここからは、神戸市街の大パノラマが広がります。生憎この日は曇天で綺麗な景色が撮れませんでしたので、”いつもはこんな素敵な夜景が観れますよ”という写真を掲載させていただきます。掬星台には震災で倒壊した鳥居を使ったベンチ群などもあります。
掬星台から歩いて摩耶山天上寺へ。
天上寺は摩耶山の中腹にありましたが、昭和51年に全焼し、この地で復興、今後も大師堂や南大門などを再建予定です。女性守護のお寺として信仰を集めていますが、他にも境内には、天空の仙郷を想起させる枯山水、四季を通じて咲き誇る花、俳句の山と呼ばれるように多くの俳人に親しまれた摩耶山を象徴する数々の句碑など、見どころが満載です。更に金堂前には真西を向いて通天門が立っています。春と秋の数日間だけ、夕日が門の中央に入って見えるそうです。
写真は復路途上の虹の駅で下観した旧摩耶観光ホテルです。年月とともに朽ちていくその姿から”廃墟の女王”と呼ばれています。そして近年、神戸県民センター六甲治山事務所によって、建物の南斜面に昭和13年阪神大水害の復旧工事で施工した治山遺構が発見されました。
廃墟としては珍しく国の登録有形文化財に登録された旧摩耶観光ホテルと、神戸の街や人々の安全な暮らしを守るためのかつての治山施設の遺構。これらの地に普段は立ち入ることができませんが、先人の取組は”ひょうごフィールドパビリオン”として認定され、ガイド付きのツーリズムとして体験できるプログラムがあります。都市近郊の山で積み重ねられてきた歴史を知ることによって、改めて摩耶山の魅力を感じていただきたいと思います。
摩耶ケーブル駅まで降りてくると、駅前に神戸市バス、坂バス(灘区内のコミュニティバス)の停留所があります。この日の帰りは坂バスでJR灘駅へ向かいました。全区間230円均一で、阪急王子公園駅、阪神岩屋駅前にも停まります。
以上の行程は半日ほどあれば十分楽しめます。今回お伺いして、摩耶の魅力は長い年月を経て、過去の栄枯盛衰を今に伝える遺構群の無常な姿、自然の中にひっそりと溶け込んだ佇まいなのではないかと感じました。次回は上野道をゆっくり登って自然に還りつつある遺構群に一つ一つゆっくり触れてみたいと思います。
兵庫県神戸県民センター長
内藤 良介
≪以下に「過去の神戸県民センター長だより」のリンク先を掲載しています。≫
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